約束が守られない!
養育費に限られませんが、当事者間で約束したことはもちろん、裁判所で決められた(命令を受けた)ことですら、守らずにお金の支払いをしない人たちがいます。
約束を守るのは当然です。したがって、当然お金を支払わないことは許されません。しかしながら、義務を負う人が支払わない場合、権利を持っている人が財産の差押手続を利用して支払ってもらうようにする必要があります。つまり、本来は当然に支払ってもらえる人が、手間と費用をかけて自ら動かなければ支払ってもらえない、ということです。
これが困ったことその1です。誰だって、黙っていれば勝手に銀行にお金が入ってくる方が良いに決まっています(もちろん毎月欠かさず約束通りの支払いをする方もたくさんおられます。)。
差押えしたい!
では、財産の差押手続をしようと思ったときに、思い浮かべてみてください。あなたは、家族の財産をどこまで把握していますか?銀行口座は知っていますか?どんな保険に入っているかしっていますか?不動産は何か持っていますか?
意外とみなさんご存じないのが実情です。もちろん近くの〇〇銀行に口座を持っているとか、●●社の生命保険には入っているとかという程度の認識はあると思います。しかし、差押手続を利用しようとすると、結構厳密に情報を特定しなければならないのです。たとえば口座であれば、銀行名はもちろん、支店名や口座番号も必要な場合がほとんどです。
「そんなの銀行や保険会社に聞けばいいでしょ」と思われる方、残念ですがおそらく思っておられるよりもハードルが高いです。たとえば、電話で聞いても教えてもらえませんし、窓口に行ったとしてもおそらく口頭では教えてもらえません。先方は先方で、預金者なり保険契約者の個人情報を保護すべき立場にあるからです。弁護士が介入しても、一定の条件を満たさない限り、回答を得ることはできません。
財産がわかった!しかし・・・
うまいこと財産がわかったとしましょう。どんなものでも、財産がわかって情報が特定できれば、差押手続をすることはできます。
しかし、差押手続によって回収することができるお金は、「差押手続をした時点で存在する財産」になります。つまり、2月19日の預金の残高が100万円あっても、2月20日に差押手続の効力が発生してその日の残高が100円であれば、100円しか回収できません。ある日に保険契約が存在しても、差押手続までに解約されていれば、回収できません。
このように、差押手続も万能ではなく、回収できるかどうかはやってみないとわからない、ある意味バクチ的な性質があるのです。
財産がわからない場合どうすればよいのか
判明している財産からはまともに回収できない場合や、財産が全然わからない場合は相当数あります。弁護士に依頼して調べるのもお金がかかりますし、自分で手続をするのも限界があります。ということで、養育費の支払が滞ったときに、やむを得ずあきらめてしまう方もおられます。
そういう方を少しでも救済しようと、明石市では、行政が立替払いをする事業を行っています。
https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/soudan_shitsu/kodomo-kyoiku/youikushien/tatekaesien.html
とても画期的な制度ですが、期間にも金額にも制限があります。また、明石市の条例で決められた制度ですので、どこの町でも使えるわけではありません。
(※令和6年5月24日追記 令和6年度からさいたま市でも同様の制度ができました。https://www.city.saitama.lg.jp/002/003/005/p114609.html)
皆さんが共通して利用できる仕組みとして、令和2年に民事執行法が改正されて、義務者から直接ではなく、第三者からの情報提供を受けて、義務者の財産を探索できる制度が生まれました。
次回はこの制度を概観したいと思います。