相手方からの情報取得手続(財産開示手続)
もとは平成15年からある手続ですが、養育費等を支払う義務を負っている相手方に対して、その財産の開示を命じることができる手続です。
令和2年の民事執行法改正によってパワーアップして使い勝手が良くなりました。
まず、手続を利用しやすくなりました。
手続を利用するためには単に養育費等を請求する権利を持っているだけではなくて、「債務名義」という、一種のお墨付きを得ている必要があります。
この債務名義には色々な種類があるのですが、元々の財産開示手続においては、債務名義の種類が限定されていました。離婚事件でよく出てくる「公正証書」というものは、債務名義ではあるのですが、財産開示手続を利用するためのお墨付きにはならないという、ややこしいことになっていました。
それが、令和2年の法改正によって、公正証書が債務名義となる場合でも、財産開示手続を利用することができるようになったのです。
次に、手続の効果がアップしました。
元々の財産開示手続においては、仮に相手方が手続に応じなかった場合の制裁として、「過料」という罰金のようなものが科されることになっていました。
それが、令和2年の法改正によって、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられることになりました。「懲役」というのは、要するに刑務所に行くことです。
自分の財産を隠したいがために刑務所に行く可能性があるとなれば、たまったものではありません。相手方が手続に真摯に応じることが期待できるようになったと言えます。
実際に、令和2年以降、財産開示手続の申立件数は飛躍的に増加しており、令和4年度のデータでは、なんと令和元年度のおよそ30倍になっているそうです。
第三者からの情報取得手続
令和2年の民事執行法改正によって新たにできた手続です。一定の条件を満たした場合に、相手方本人からではなく、登記所や市町村、金融機関等から情報提供を受けることができます。
個人的に効果的だと思うのは、市町村や厚生年金保険の実施機関です。つまり、相手方の勤務先の情報を把握しているころが、勤務先の情報を提供してくれる可能性があるのです。この制度を使わずに、連絡を取っていない相手方の勤務先を調べるのは至難の業です。というよりも、SNSや共通の友人を介して偶然わかるということに期待するしかないように思えます。
それでもまだネックもあり
財産開示手続のパワーアップと新たな手続の導入によって、養育費等が支払われない状況に泣き寝入りする方は、必ず減っているはずです。
とはいえ、やはりネックもあります。
まずは、費用の問題です。
財産開示手続を申し立てる前提として、相手方の財産をできる限り詳細に調べる必要があります。わかっている口座や不動産があれば、その現在の状況を調べなければなりません。
不動産は誰でも登記情報にアクセスできますし、手数料もそこまで高額ではありませんが、口座の情報照会は、前回記事でお伝えした通り、一般の方では困難です。
弁護士であれば、債務名義を持っていれば、弁護士会を通じて金融機関に照会をかけることができますが、すべての金融機関から必ず回答を得られるわけではありません。何より弁護士費用がかかってしまいます。また、裁判所に申し立てをするにも手数料がかかります(数千円です。)。
なお、第三者からの情報取得手続を利用するためには、その前に財産開示手続を経ておく必要があります。
つぎに、費用対効果の問題です。
つまり、なんとか財産開示手続までできたとして、相手方が何も財産を持っていない、ということはあり得るので、お金をかけたはいいけれども結局とりっぱぐれるということが発生してしまいます。
どこでも勤務せずに暮らしている人は少数でしょうが、かといって長期間同じ職場にいるという人ばかりではなく、数か月ごとに職を転々とする人もいるでしょう。
手続を利用するには時間がかかりますので、手続が認められて情報が得られるタイミングでたまたま離職しているとか、得られた情報をもとに給与の強制執行をかけたらそのタイミングでは既に離職していたとか、そういう間の悪いことが起こり得るのです。
このあたりは制度の限界として致し方ない部分もありますが、制度を利用する側としては、どうしても及び腰になってしまう一つの事情と言えます。